その出会いは人類にとって、どのような意味を持っていたのか。  恐怖と侵略者と共にこの星に降り立った、小さな戦士達――彼らは自らを『ガチャボーグ』と呼んだ。  彼らは遥かなる宇宙から、まるで導かれるように少年少女達の元へやってきた。  神が定めた必然か、運命の悪戯なのか。  14人の子供達と、そのパートナーとなったガチャボーク達。  彼らは壮絶な戦いの末、遂に恐怖の侵略者であるデスフォース――そしてそれを率いるデスブレンを打ち倒し、この青い星に平和をもたらした。  最終決戦において万人に露呈した彼らの存在は、地球人の常識を一夜にしてひっくり返した。  未知の鉱物で構成された体、無機物に宿る意思、僅か15センチのボディから生み出される驚異的なエネルギー。  この『未知との遭遇』はサハリ町――日本だけの問題に留まらず、国連の議題となるまでの拡大を見せる。  ガチャボーグの持つ可能性と危険性が、世界中の科学者によって議論され、得体の知れない存在である『ガチャボーグ』への不信感は募っていった。  知らないモノには近づかない。  分からないモノは危険。  人間が持つ潜在的な危機回避能力は、人類を『ガチャボーグの粛清』という過ちに走らせようとした――かに見えた。  しかし、第8回ガチャボーグ対策会議において、証人として召喚された子供達とガチャボーグらが状況を変える。 『ガチャボーグは、俺の――俺達の親友なんだ!』  対デスフォース部隊『ガチャフォース』のリーダー的存在と目される少年、獅子戸吼の主張は実にシンプルだった。  誰かと友達になるのに、難しい理屈なんて要らない。  オトナの世界では到底通用しないセリフ。  しかし、この言葉に誰かが拍手を送った。  拍手は少しずつ数を増やしていった。  少年にエールを送っていたのは、他ならぬガチャボーグを研究していた科学者達だった。  彼らは分かっていたのだ。  ガチャボーグが持つ危険性は、確かに、これまで考えられなかった程に大きい。  しかしそれと同時に、『ガチャボーグと人間は友人になれる』というコトも、認めるべき事実として認識されていたのだ。  この様子が公共の電波によって放映されるやいなや、全国から続々と『ボーグを匿っていた』子供達――そして、大人達が名乗りを上げる。  得体の知れない『来訪者』としてでなく、友人としてガチャボーグと接した者は思わずに居られないのだ。  私達は一緒に生きていけるのだ、と。  TVや雑誌がこぞってガチャボーグを取り上げると、初めは不信感を隠さなかった大人達も、瞬く間に彼らを認めるようになっていく。  ガチャボーグの姿が、大人達のノスタルジックな感情をくすぐったのだ、という一因もあるだろう。  だが、第13回ガチャボーグ対策会議において、名誉親善大使、Gレッドはこう宣言する。 『人とガチャボーグを繋ぐ友情――その絆こそ、GFエナジーなのだ』  ――そして、月日は流れ。  ガチャボーグの姿が日常となった、2年後の『はじまりのまち』……サハリ町。  事件は、春休みのある夜に幕を開く。 劇場版『ガチャフォース』〜漆黒の勇者〜 予告編 「スピナねぇ、コマンドねぇ! 下がって!」 「バリア!?」  バリアガールは叫ぶと、当惑する姉を押しのけて飛び出した。  胸の炉心から送られるエネルギーを左腕のクリスタルメイルが増幅し、局地的な『障壁』を展開する。  コンマ一秒のタイミングで発生したバリアが、バリアガールの身長の半分はありそうなハンマーを弾き返した。  コマンドガール達を奇襲したトゲ付きのハンマーが、暗闇に消えていく。その向こうで、どこかで聞いたことのある笑い声が響いた。 「クックック……流石、ガールボーグ部隊のエリートエージェントにして、ガチャフォースの一員と言ったところか……!」 「その声は……まさか!?」  声の方にバスターを向けながら、コマンドガールが驚愕の表情を浮かべる。  暗闇に、橙色の光が浮ぶ――四つの明滅する光と、中央の一つ目。  がしゃん、と重厚な歩行音を響かせ、暗闇から溶け出す様に姿を現したのは――かつてデスフォースの鋼鉄破壊師団長としてガチャフォースを苦しめた、『破壊者』の二つ名を持つガチャボーグ。 「ハンマーロボ……生きていたの!?」  全身を覆うボロボロのマント――その上からでも、彼の右腕が肩から存在しないことはハッキリと見て取れた。  間違いない。目の前にいるこのマシンボーグは、自分達を苦しめた『あの』ハンマーロボだ! 「この俺があんな爆発で死ぬかよ――さあ、楽しいデートの再開だぜ……!!」 「……嬉しそうね、うさぎ」 「そんなこと無いって〜」  半ば呆れたような言葉に、ベッドの上に寝転びながら答えるうさぎ。  既に何度も繰り返されたやりとりに、うさぎのパートナーボーグであるケイは、やれやれと首を振って見せた。  何故って――どうみても彼女のコマンダーは、今が人生の絶頂期です、って顔をしてたからだ。  人間大のうさぎがプリントされた――無論、動物の――抱き枕に跨りながら、うさぎは何度も読み返した手紙を幸せそうに眺めていた。 「そろそろ、何が書いてあったのか教えてくれても良いと思うんだけど……?」 「えへへ〜」  ケイの言葉に、うさぎは、彼女の普段を知る人間が思わず寒気を覚えるような、腑抜けた笑いを浮かべた。 「……」  パートナーとて例外ではない。ケイは、全身に鳥肌が立つのを感じて身体を抱いた。  ケイだって分かってはいるのだ。うさぎだって、中学2年生になった年頃の女の子。  いくらお転婆とは言え、惚れている男から手紙を貰って、嬉しくないハズが無いのである。  しかし、これは……。 「えへっ……」  いっそこの場に、うさぎの親友である少女が居てくれたらどんなに幸せだろう。  少なくともケイは、自分のコマンダーが発する奇怪な笑い声の主を、マナだと思い込むことができるのだから。  だが、この状況では『聞き違い』なんて言い訳が通用するわけも無く。  ナオって心の病もケアしてくれるのかしら、と真剣に考え込んでいた。 「……くすっ♪」  その音符マーク付きの微笑が耳に届いた時、ケイは何故か、ポップスハニーの歌で回らされたときの感触を追体験していた。 「お願いだから、顔でも洗ってきて……いつものうさぎに戻って……」 「うん〜? あたしはいつものうさぎですよ〜?」 「……明日その顔で皆に会って、何人がうさぎだって分かるか賭けてみる?」  その言葉に、流石に自分の表情筋のさぼり具合に気付いたのか、うさぎは必死に顔を引き締めた。  ――が、素の表情でぴくぴくと頬を震わせているその様子は、ある意味満面の笑みより怖いかも知れなかった。 「……知らねえのか、お前ら? 主役は遅れてやってくる、ってなぁ!」  紅い輝きを放つ刃が、デスボーグの亡骸から引き抜かれる。  血を吸う悦びに恍惚の表情を浮かべながら、紫の鎧を纏ったバンパイアナイトは、デスボーグの大群に向かって、ゆっくりと双振りの魔剣――シャドゥブリンガーを構えた。 「ネコベー……さん!?」  霞む視界に映る、ここに居るはずのない人物――そして、一番居て欲しかった人物の姿が、キツネの視界を更に滲ませた。 「そんな……ほんとに、ほんとに、ネコベーさんなんですか!?」 「このハンサムが他の誰に見えるんだよ?」  軽口を叩きながら、ネコベーはキツネを助け起こした。  肩を抱きながら、キツネの額に流れる血を拭う。 「あーあー、血だらけじゃねえか。お前ももう中学生なんだから、もーちょっと上手くやれよなぁ?」  いつもと変わらない口調で悪態を吐くネコベーに感極まったのか、キツネの両目にみるみる涙が溜まっていく。 「ネコベーさん、俺、俺、ネコベーさんもしかしたら死んじゃったんじゃないかって……だけど、来てくれて、俺……会いたかったです、ネコ……!」  叫ぶように言葉を吐き出しながら、ネコベーに抱きつこうとするキツネ――だったが、それは叶わず、キツネは言葉の途中で気を失った。  どこからともなく飛んできたスパナが脳天に直撃して。  ……すぱな?  ネコベーは悪い予感を覚えた。残念なことに、彼の悪い予感は十中八九当たるのだ――もっとも、予感など無くても慢性トラブル体質なネコベーにとって、あまり有意義な能力とも言い難かったが。  そしてこの場合においても、予感は的中した。 「ネコベーさまぁぁぁぁぁっ!!」  ネコベーの中で『サイバーマーズとサイバーアトラスとアヌビスウィングとデスブレンを同時に相手するより厄介な最強の敵』の称号を持つGFコマンダー……コタローの姉である縞野うみなの声が響き渡った。 「ネコベーさまっ、やっぱり生きてたんですねっ! 私、ネコベーさまが死ぬわけないって信じてましたけどやっぱり心配でっ! だから私願掛けに千羽鶴ならぬ千本ドリル作ってお待ちしてましたっ! 今度お見せしますね? そりゃあもう凄いんですから、霧夜のドリルを溶かして固めなおした愛情たっぷりの手作りドリルなんですよっ!?」 「わけわかんねぇコト言いながら抱きついてくんじゃねぇ! っつーかたった三日間居ない間にどーやってそんな数のドリルを造ったんだてめえっ」  ――と。必死にうみなを引き剥がそうと奮闘するネコベーの耳に、聞き覚えのある声が届いた。 「……もう少しありがたがってくれぬか、ネコベー殿」  瓦礫の下から、紫のクローロボ……アイザックを抱えて姿を現したのは、うみなのパートナーであるドリルロボ・霧夜。  ……どことなく、彼の声と銀色のボディに、疲弊の色が浮んでいるように思えた。 「よ、よぉ……なんか、疲れてねぇかオマエ?」 「うみなの『願掛け☆千本ドリル大作戦』のドリルの原材料は、聞いての通り私のドリルだからな――」  慎重にして冷静沈着。元々どこか人生を諦観したような口調のこのドリルロボの言葉は、普段のそれより重い。 「それがどういうことか分かるか、ネコベー殿」 「……よーするに。千本、ドリルを提供したのか?」  霧夜は、無言だった。  ただ、小さく首肯して見せた。  デスボーグ達と退治していたブラドが、気の毒そうに振り向いていた。  デスボーグ達も、心なしか霧夜に哀れみの視線を向けているように見えた。  3日でドリル千本。  それだけの量を生やすのがどれほどの重労働なのか、ガチャボーグならぬネコベーにも、霧夜のやつれ具合を見れば想像できる。  同じガチャボーグである彼らには、もっとよく理解できるのだろうか。 「人間に例えるなら、『生えてくるんだから良いじゃない』と言われながら、ガムテープで髭を剃られるような心境だろうか」  ……死んでもゴメンだぞ。  ネコベーは顎の無精髭を、うみなから庇うように抑えた――。 「失礼だね。僕はいつだって冷静さ」 「っは、何を戯言を。この状況でまだ言うか――!」  仮面を着けたデスコマンダーが叫ぶと同時に、真紅のガチャボーグがレオパルドに向かって猛然と走り出す。  手に持った剣を、引き絞るように構えて。デスコマンダーの身体から発する黒い瘴気を、銀の刃にまとう。 「一人で私を追い詰めた貴様に敬意を表して、我らが最強の必殺技で葬らせてもらう。殺れ、そのガチャボーグを破壊しろ――!!」  その命令を待っていた、という風に、真紅のガチャボーグは光の宿らぬ双眸でレオパルドを見据えた。  そして次の瞬間、背中のブースターで限界まで加速し、ドス黒いエネルギーを撒き散らしながら、剣を突き出し猛スピードでレオパルドに突っ込んでくる――!!  最強の必殺技。その呼称が間違いじゃないことを、僕は良く知っていた。もちろんレオパルドも。  あの技をまともに喰らえば、いかにレオパルドの装甲でも無事には済まないだろう。  もちろん、レオパルドが受けたダメージがフィールドバックされる僕自身も、五体満足で帰れるかは怪しいものだ。  ――でも。 「かかったな!」  出来る限り、勇敢さを装って僕は叫んだ。怖くないって言えば嘘になるけど、後悔なんてまるでしてない。  たとえこの攻撃が失敗して負けたとしても、アイツに一矢報いることができるなら、倒されたって構わなかった。 「……まさか!? 攻撃を中止しろ――」  ようやく僕の狙いを悟って動揺するアイツに、震える拳を隠しながら言い放つ。 「気付くのが遅いよ。だからいつも言ってるだろ? ――もうちょっとスマートにやれないかな、ってね?」  怖かった。だけどそのセリフを言えただけで、この上なく上等な気分を味わえたのも事実だ。  僕が負けたって良い。僕には沢山の仲間が居るんだから、みんなの援護射撃が出来ればそれで充分さ。  でも、最初にアイツに痛い目を見せるのは、どうしても僕じゃなきゃ許せなかったから。  何でって? それは――。 「レオパルド、主砲発射!!」 「応、マスター!」  僕のわがままに付き合わせてしまったレオパルドには、申し訳ないと思う。  でも彼は、僕の戦う理由を、これ以上なく上等だ、なんて言ってくれたから。  無事に家に帰れたら、上等のオイルを買ってやろう。  赤いガチャボーグは、凄まじい速度で迫ってくる。かつて幾度と無く戦い、そして一度も勝てなかった相手。  でも――今日は、少なくとも負けられない理由がある。  ……こいつらがうさぎを泣かせたから。  ただそれだけのコトを、男が闘うための最高の理由だと言ってくれたレオパルドの気持ちに応えるためでもある。  砲身が、予め決められた目標を捕らえた。  僕の声と、最高のパートナーの声が重なる。 『これは当たるぅ!』  ――コウがね、帰ってくるんだ。  ――お父さんに我がまま言って、サハリ町で一人暮らししたいって言って。  決意。 「コウがなんでこんなコトをするのかは分からないけど……止めなくちゃ。GFコマンダーとして、親友として」  信頼。 「絶対、また一緒に笑える日が来るよ。そうだよね、カケルくん?」  信念。 「かつて貴様がそうした様に、今度は俺がお前の過ちを正す――待っていろよ、コウ……!!」  感謝。 「2年前の借りを返せるとは思ってないけど……でも、やっと貴方に恩返しが出来る。今度はガチャフォースのGFコマンダーとして、貴方と戦う」 『好きだから、戦わなくちゃいけない事もある。  大事なのは、そのとき、憎しみで戦うんじゃなくて――あなたの素直な気持ちをぶつけること』  ……ケイの言葉が胸に突き刺さる。  私の、想いは。  ――愛? 「ガタガタぬかしてないでかかってらっしゃい! ――アンタの目は、私がシッカリと覚ましてあげる……!!」 劇場版『ガチャフォース』〜漆黒の勇者〜  2006年春、公開未定! 注:本文中の記述は全て私の妄想であり、ガチャフォースの公式設定に基づくものではありません。また、『俺のメットは何処に消えたんだ!』という苦情は一切受け付けておりませんので、ご了承下さい。