16、  デスウイングが消滅してすぐに、地上では残りの戦力を全投入することが決められていた。デスブレ ンへの攻撃を担当するガチャボーグたちは、あわただしくデスアークの上に乗り込んでいる。  その様子を横目にうかがいながら、地上のヴラドは自身のパートナーに目をやった。ネコベーは隣で 息を乱しているミナに言葉をかけ続けている。  先ほどのGレッドを巻き込もうとした大爆発は、空中に展開するシールドにダメージを与えていた。 これから先はデスアークが足場になれるのでシールドを展開し続けることの重要性は低くなるが、少な くともGレッドを乗せている間は消滅させるわけにはいかず、とっさにミナがバーストを使うことでシ ールドの耐久力を一時的に上昇させたのだ。  ヴラドは思っていた。  デスブレンと戦う前まではどうやって逃げ出そうかと算段していたネコベーが、心を決めてからは一 瞬の物怖じも見せない。今のネコベーなら、自分の隠された力さえ引き出してくれるかもしれない。 「できるなら、もう少し戦いが続いて欲しいものだな」 デスブレンが倒れれば、ネコベーと共に戦う機会は二度とないだろう。ヴラドはネコベーの成長を喜び つつ、同時に無念さを心に漂わせた。 17、 「Gレッド、こっちよ!」 唐突に下方から届いたケイの声に反応して、Gレッドは向きを変えないままバリアの外に向かって大き くバックジャンプした。  体が上昇しているときにはαウイングの群れが中空に飛びかっている様子が見え、徐々に下降してい くにつれてバリアの板が視界を下から上に抜けていく。このままなら地表に激突するまで落下し続ける はずだが、Gレッドの体は巨大化しつつ急上昇してきたデスアークの甲板によって受け止められた。  甲板上には地上で待機していたガチャボーグ全員が乗っている。デスブレンの上方で静止したデスア ークを足場にして、全員でデスブレンの本体と対峙するのだ。  甲板に降り立つや、Gレッドは素早く言葉を並べた。 「デスブレンが放ってくる氷塊に注意するんだ。凍らされてしまえば終わりだぞ」 「ダイジョウブ、タイサクハアル」 そうレオパルドが返したところで、デスアークの上昇が止まった。船体はデスブレンの本体を見下ろす 位置に浮いている。  デスブレンは動きを止めたデスアークに向かって、3発の氷塊を投げつけた。 「イクゾ、ビリー、サスケ」 甲板の淵まで出てきたレオパルドは言葉に続けて、弾速を落とした主砲を氷塊の一つにむけて放った。 同じタイミングでビリーはリボルバーを1発だけ放ち、サスケは着火していないシノビボムを別の氷塊 へ投擲する。  いずれの攻撃もビームと違って実体を持った弾丸である。氷塊は己に触れた実体弾を凍らせるべき対 象であると認識し、絶対零度の侵食を開始する。連鎖的に付近のαウイングも反応を開始し、凍りつい た実体弾に向かって7体が殺到すると膨大な熱量の爆発をおこして虚空に消えた。 「ヘッ、こんなもんだな」 リボルバーを構えたままビリーが調子付く。それを皮切りにガチャボーグたちはデスブレンの上に飛び 出していき、ガチャフォースの大攻勢が始まった。  攻撃をひきつけて回避しつつ、デスブレンの上にある砲台を壊していくサスケ。  デスブレン本体にミサイルを浴びせつつ、αウイングの攻撃からナオを守るアイザック。  怪光線を華麗に回避しながら、嵐のように銃弾を放つケイとビリー。  デスブレンのバリアが壊れたタイミングに合わせて必殺技を放つGレッドとガルダ。  そして何より、ナオから常にエネルギーの補給を受けつつ全砲門から無数のビームを放つデスアーク の働きは凄まじいものであった。  デスブレンのバリアを壊した回数が5回、6回と増加していく。周囲のαウイングはほとんど叩き落 され、砲台は全て壊されている。いくら氷塊を撃ってきたところでレオパルドがデスアークの上から阻 止に専念している以上、ガチャフォースのボーグに当たることはない。  誰もが勝利を確信した、そのときだった。  突如、レオパルドがデスアークの上から投げ出された。追い詰められたデスブレンが別の攻撃方法に 切り替えたのだ。  デスブレンの本体から放たれた4発のビームは、いったん四方に展開してから目標として捕らえたボ ーグに向かって殺到する。単純な攻撃だが、デスブレンはそのプロセスを1秒間に10回の速さで実行 している。回避できる余裕などない。  デスブレンは素早くサスケをロックオンしてシールドの上に叩き落すと、アイザックがカバーしきれ ない部分から火線を送り込み、ナオの注射器を破壊する。  そのころにはケイ・ビリー・Gレッドがデスブレンの上で散開し、攻撃を分散しようと試みたがデス ブレンは目もくれずにデスアークを狙い撃ちにした。頑強を誇るデスアークも集中された無数の火線に 全砲門を破壊され、残存したαウイングの体当たりによって推進装置を止められれば、砲台にも足場に もなれない、ただシールドの上で転がるだけの金属塊に成り下がる。  デスアークが落ちる前にデスブレンの上に飛び移ろうとナオとアイザックがあわてている間に、攻撃 の手はGレッドに伸ばされた。最初の数撃こそプラズマブレードで弾いたものの、手が追いつかなくな った一瞬の隙に精密な狙いで左足首を打ち抜かれ、よろめいたところを側面から体当たりしてきたαウ イングによって突き落とされる。  デスブレン本体への攻撃が可能な位置に残された高火力機はガルダのみとなり、ユージは何とか守り きるためにジェルフィールドを展開したジャックを援護に向かわせた。しかしフィールドひとつで全て の攻撃から守りきれるはずもなく、ジャックは頭、ガルダは翼に直撃を受けて飛行能力を失い、下層へ と落ちていった。 18、  上空から真下にビームを放ち、26体目のデスボーグを撃破したブルーは視線をはるか高空へと向け た。だいぶ落ち着いてきた地上とは裏腹に、大気圏外に張られた巨大なシールドの上では激戦が続いて いる。デスブレンの強力な火力を前にしても、どうにかバリアを破ってダメージを与えていくガチャフ ォースのボーグたち。しかしレオパルド・デスアークといった大砲どころか、Gレッド・ガルダさえ攻 撃に参加できない状況では、虫の息のデスブレンを倒すことさえ絶望的になっていた。  ブルーの目に、デスブレンの本体を覆う紫色のバリアが再び映った。あと一度これを破れたなら、勝 負はつくだろう。  そのとき、二つの影がデスブレンから分離した。それは徐々に大きく見えるようになると、シールド に背中を打ちつけて静止する。ビリーとアイザックがデスブレンの上から落とされたのだ。これでデス ブレンの上に残っているのは丸腰のナオと、少なからずダメージを受けているはずであろうケイの2体 のみ。 ―――もはやこれまで。もう勝つことなどできない。 ブルーの意識の中で、何者かがささやいた。 ―――我々にもこの世界にも未来などない。もう終わりだ。 「そうかもしれない……」 ブルーは我知らず呟いていた。意識の中に救っている何者かは、その言葉に喜んでブルーの思考を支配 しようと巣穴から這い出てくる。ブルーは抵抗するそぶりすら見せず、体を滞空させたまま何者かを受 け入れていった。  動きを止めたブルーを好ましく思ったのか、一体のデスボーグ・シグマが背後から接近を始めた。腕 のビームガンは既にエネルギー切れを起こしているため、飛行状態からきりもみ回転しつつ剣を突き出 して串刺しにしようという思惑だ。無音を保ったまま徐々に速度を上げていき、ブルーの翼を正面に据 える。細いフレームで構成されている翼なら、手持ちのソードでも十分な損傷を与えられるという計算 に基づいた行動であり、事実それは正解だったのだが、答え合わせをするより早く投げつけられたミラ イソードの刀身によってシグマの頭は2つに割られていた。  一拍おくれて2条のビームがシグマの胴体を撃ち抜き、黒いボーグはあっけなく爆散する。ブルーは その地点へと飛翔し、爆風にあおられて舞いおどるミライソードを手に取った。  ブルーの意識は波ひとつない静けさの中にある。巣を作っていた何者かは、先ほどのシグマと一緒に どこかへ消えうせていた。  もう自分を惑わせるものは何ひとつない。ブルーはいちどデスブレンに向かってまっすぐな視線を投 げてから、オロチのもとへ羽ばたいていった。