11、  コウ、ショウ、オロチと共にイナリ山に向かう道中、ブルーはオロチにだけ聞こえる小さな声で話しかけた。 「オロチ、君はどうして戦っているんだ?」 オロチはこちらも小さな声で、行く先から瞳をそらさないまま答える。 「本当の自分を取り戻すためだ」 思わず「本当の自分…?」と問いを返したブルーに対して、赤い瞳の少女はよどみのない言葉を投げていく。 「いつわりのない、真に自分の感情を持つ者のことだ。今の私は記憶を失い、感情の大半をデスブレンによっ  て抑制されている。だから…生きているという現実感が薄いんだ」 オロチが言ったことは、ブルー自身にも当てはまる部分があった。自分自身の感情というものを、警備隊に入 ってからずっとどこかに置き忘れていたような気がする。 「ありのままの感情を持って生きる…そんな当たり前のことに餓えているんだ。うらやましい…みんなが」 「うらやましい……か」 ブルーは自分がレッドに対して、そう思っていたのではないかと自問した。レッドは全ての現象を自身のこと と捉えて生きている。何が起ころうとも全体の意思ばかりを正しいものと信じてきたブルーにとって、それが 新鮮に映っていたことは疑いようがない。  オロチがコウに惹かれているのとは違うが、自分もレッドに惹かれているのかもしれないと、ブルーは淡い 自覚をいだきつつあった。 12、 「では、ブリーフィングを開始します」 イナリ山の山道から脇に入ったところにある広場で、ユージは円をつくって並んでいるガチャフォースメンバー に向かって言った。 「惑星メガボーグでの戦闘データによると、デスブレンは集めたエナジーを使って2000Kmの大きさに巨  大化し、宇宙空間からの攻撃でメガボーグを破壊したそうです」 レッドとブルーを除いたガチャボーグたちが表情をこわばらせる。できれば2度と思い出したくない体験だっ た。ユージは続ける。 「私たちはパートナーボーグにGFエナジーを最大まで供給することで、ボーグをさばな町のときよりもさら  に巨大化させて挑みます」 「しかし、目標は遥か上空だぞ? 地表からの攻撃では奴の下面しか叩けんはずだ」 「メット君のおっしゃるとおり、私たちはデスブレンのさらに上から攻撃をしかける必要があります。そこで  4名のコマンダーには、パートナーではなくシールドウィッチにGFエナジーを送っていただき、上空で展  開されたシールドを足場にしてデスブレンの頭上を取ります」 「フン…なるほどな」 メットが納得したところで、入れ替わりにコウが尋ねる。 「それで、誰がシールドを張るんだ?」 ユージはコマンダーたちを一瞥してから「空での戦闘では、射撃武器の重要性が高くなります」とつないだ。 「よって、近接戦重視のパートナーを持つネコベーさんとテツヤ君。それから地上では残存しているデスボー  グが一斉に動き出すでしょうから、コマンダーがやられないように戦力を運用しなくてはいけません。その  指揮役としてメット君とシジマ。最後に、地上部隊にも射撃ができるボーグが必要になりますから、その役  をミナさんにお願いします」 『わかったわ。任せて』 ミナと、パートナーであるキラーガールの澪(ミオ)が声を揃えた。 「レッドさんとブルーさんにも地上に残ってもらい、上空からのデスボーグ掃討をお願いします」 「作戦目的:GFコマンダーの防衛、か。了解したぜ、司令官」 レッドはいつもの軽い口調で返したが、となりで滞空しているブルーは無言を貫いた。  レッドに司令官という肩書きを言い渡されたユージは少し得意げになったのか、先ほどまでよりもやや力強 い声を出していく。 「デスブレンへの攻撃を担当するメンバーの出撃順は、配布したプリントに書いてあるとおりです。デスブレ  ンが接近する夜明け前まではゆっくり休んで、決戦に備えてください。では、解散!」 13、  “地球時間で西暦2003年10月9日未明、惑星メガボーグから脱出に成功したガチャボーグたちの抵抗 むなしく、襲来したデスブレンによって地球は破壊された”  新メガボーグの歴史には確かそう書いてあったな、とレッドは思い返していた。辺りはまだ夜の闇に覆われ ているが、あと十数分もすれば徐々に光が差してくるだろう。地球の運命はあと1時間ほどで決してしまうと いうわけだ。  地上部隊に組み込まれたボーグたちは狙撃役のミオを除いて、他のガチャフォースメンバーとは離れたとこ ろに配置されている。コマンダーたちを東西南北に囲む円陣を取っており、この中にデスボーグを侵入させな いことが第一の目的である。  北側に配置されたレッドはイナリ山の木々の上に滞空しながら、子供たちは今ごろ何を話しているのだろう と思って南に視線を向けた。 「マナちゃん」 不意にかかってきた声に反応して、マナは振り返った。その先には、いつもどおりの優しいカケルの姿がある。 「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。上にあがったら、僕とサスケがちゃんとフォローするからね」 デスブレンに格闘戦をしかけることは難しいと判断していたユージは、サスケをフォロー役に位置づけていた。 デスブレン本体への攻撃を行うのではなく、周囲に配備されている砲台を叩くことと、敵の攻撃をひきつけた うえで回避行動をとり、敵の攻撃を分散するという役目である。 「でも私…もし負けちゃたらって考えると、怖くって…」 マナは自分の体を両腕で抱くようにして、先ほどから離れようとしない恐怖心をなんとか押さえこもうとした。 「カケル君…私たち、負けないよね? ぜったい、また一緒に学校に行ったり、遊んだりできるよね?」 マナの問いに、カケルはすぐに言葉を返さなかった。そのかわりにマナの体を抱き寄せ、自分の胸と両腕でし っかりと包みこんだ。 「絶対に勝つよ。だから何の心配もいらない。僕たちばずっと、こうやっているんだ」 カケルの言葉を聞いて、マナは両腕から力を抜いた。そうやってふたりの間を阻んでいたものが無くなると、 マナは腕をカケルの背中にまわし、自身の全てを想い人へと預けていった。