12、 『GFエナジー計測完了。訓練生第1期、錦織信。実測値3000です』 ほぼ予測通りの結果ではあったが、それでもユージは数値の高さに感嘆した。3000といえば4年前のGブラッ ク戦のとき、ちょうどピークを迎えていたコウやショウと同じ数字である。しかし問題なのは今のショウだ。 ピークを過ぎて4年を経た数字は、どれほどになるのだろうか。 『続いて旧ガチャフォース、鷹見ショウ。実測値2400です』 「ハハッ、聞いたか荒木! これは勝ったぞ!」 ミナのアナウンスを聞くや、所長が歓喜の声を上げた。2400といえば8年前に起こったデスブレンとの戦いの 終盤。サイバーデスドラゴン戦の前くらいか。決して低い数字ではないが、シンとの開きが20%もあるとなれ ば、まず勝つことはできないだろう。  ユージは所長に苦みを含んだ笑いで応じると、一応の伺いを立ててから十数歩離れたところへと移動した。 その背中を目で追ったキョウコが、何かを決意したような面持ちでユージの後を追う。二人は合流したところ で、所長に聞かれないほどの声量でやりとりを始めた。 「さて、困った状況になっちゃいましたね」 「ええ。計画に不確定要素が混じるのは避けられないでしょう」 「一応、まだ一縷の望みを残してはいますが……」 言いながら、ユージは実験施設の中へと視線を転じる。透明な防護壁に隔てられた向こう側では、ちょうどガ ルダとアクイラの実戦が始まるところだった。  5メートルほどの距離を置いて滞空する両ガチャボーグは、戦闘開始直後に飛び道具を交錯させつつ天井近 くまで高度を上げた。互いに直撃はなかったものの、アクイラのビーム・ニードル・ガトリングガンの方がガ ルダのファイヤーボールよりも性能面で上回っており、ファイヤーボールの大半が相殺されて落とされている 状況のなかでも、ビームニードルの細長い光弾は凶暴なエネルギーを帯びたままガルダの足先をかすめて過ぎ た。 「おぉ、さすがは特別機だな!」 ユージとキョウコが離れたため解説役を失った所長は、アクイラの仕様書を片手に観戦を楽しんでいた。いま 放たれたのが主力兵器のビーム・ニードル・ガトリングガン。銃身は腕と一体になったトンファー状の武器に 内蔵されており、ガトリングタンクの連射力と、キラーガールのアサルトライフルを超える弾速を両立させた 高性能兵器だと書いてある。  足先をわずかに焦がしたガルダは射撃戦では不利だと判断し、高度を上げる間にチャージしておいたファイ ヤーボムを発射した。これを盾にしつつ、アクイラとの距離を詰めていく。その間にも、アクイラがファイヤ ーボムを下方向に回避すると読んで、ファイヤーボールの照準を低めに合わせておいた。  ガルダの予想通り、アクイラは高度を下げてファイヤーボムを回避すると、ガルダの50センチ下方を高速で すり抜け、背後へと過ぎ去った。あらかじめ照準を合わせていたのにも関わらず、発射のタイミングを逸した。 ガルダはその事実に一瞬の狼狽を見せたものの、すぐに切り替えてアクイラの方へと体をひねる。するとアク イラは、すでに10メートル以上の彼方を飛行していた。 (なんて速さだ!) ガルダは心中に吐き捨てた。ウイングボーグ族の平均飛行速度は秒速3メートル程度でしかない。だがアクイ ラは2秒足らずの間に10メートルもの距離を飛び去っている。ウイングボーグどころか、サイバーニンジャ以 上のスピードだ。 「ショウ! バーストだ!」 正面下方にいるショウに向けて、ガルダは躊躇なく叫んだ。現状の性能差ではアクイラを捕まえることはでき ない。バーストして能力を底上げし、アクイラを捕まえるか、それができなくても機動性を奪える程度の損傷 を与えておかなければならない。  しかしガルダがバーストの光を纏うことはなかった。コマンダーであるショウは、ガルダと視線を合わせた まま無言で首を横に振った。 「なに言ってんだ! 早くしねえとまた来るぞ!」 抗議の言葉とともに、ガルダはブレードを保持した右腕を振り上げる。いつもより妙に軽く振れたように感じ て、右手にあるはずのブレードを見やる。 「これは……!?」 3段の波状になっているガルダブレードのうち、手元の1段分だけを残して、そこから先が消え失せていた。 すれ違いざまに何らかの攻撃を叩きこまれた結果なのだろうが、ブレードが無くなっていることを今の今まで まったく認識することができなかった。  いくら接近戦に持ち込んだところで、ブレード無しで勝負ができる相手ではない。先ほどのショウの首振り は、ここで投了すべきという意思を示したものであった。