10、 『シン君、聞こえますか?』  いきなり届いたユージの声に驚いて、シンは相手コマンダーに釘付けになっていた視線をキャットウォーク へと移した。所長に向かってガンを飛ばすことを警戒されてかユージとキョウコが手前に移動しており、シン の位置からは所長の姿が完全に見えなくなっている。3人の中で一番シン寄りに立っているユージの耳にはい つのまにかインカムが着けられていて、研究員のミナに代わって場内のアナウンスを行っていた。 『対戦相手は見ての通り、旧ガチャフォースの双璧と言われたショウ君です。人工ガチャボーグの性能を測る ためのデビュー戦として最高の相手を用意しました。存分に実力を振るい、正々堂々と撃破しなさい』  階上からこちらを見やりつつ話すユージの目には、遠目からでも分かるほどに覇気が無い。シンの脳裏に、 先ほどミサキから聞いた話が反響する。 ≪違うよ。もともと別の人が相手をする予定だったけど、ユージさんは私に変更したかったんだって。でも、 所長さんが変更を認めなかったの≫  思い返してみれば、ユージはもともとショウとの対戦を避けたがっていた。そんなユージが心の底から「撃 破しなさい」などと言ってくるはずがない。シンは確信を持って、今の言葉がユージの本心ではないと看破し た。 (またあの所長か……) シンは心中に毒づいた。そもそもこの勝負、正々堂々などというものとはかけ離れている。シンは莫大なハン デをもらっているのだ。  コマンダーが発揮できるGFエナジーの量は13〜15歳でピークに達し、それから少しずつ減少していく。今 年で19歳になるショウと、ずっと訓練を続けてきた13歳のシンではGFエナジーの絶対量が違う。しかもガル ダの手の内を全て知っているシンに対して、おそらくショウはアクイラの情報を全く与えられていないだろう。 (こんな条件で、俺とアクイラが負けるわけないじゃないか!) 明らかに勝てる勝負を与えられている。その実感がシンのプライドを逆撫でした。