1−1、 8月1日。 練習試合を終えて家に戻ってきたリンは自分の部屋に入るなり、ベッドに突っ伏した。 学校にいる間は気を張っているので、家に戻ってくると一気に疲れが出る。 もともと並の強さしかなかった百十中学校バスケット部はリンの加入で大きく力を伸ばした。 リンは小学校では5年生のうちからキャプテンを務め、地区大会止まりだった部を 県大会へと導いた程のプレイヤーである。 周りからはバスケット部が強い私立中学へ進んだ方が良いと言われながらも、彼女は百十中学校に 進学するという意思を曲げなかった。 それには2年前の出来事が関係している。“オロチ”として戦った、あの出来事が。 リンは夢を見ていた。 ドロドロと溶け出すように、空の青色が黒く変色していく。 変色はやがて地面にまで達し、自分を囲む360度の空間がすべて黒く塗りつぶされた。 宙に浮きながらゆっくりと落ちていく感覚が続き、やがて足が硬いものに触れる。地面だ。 正方形の地表に五重の円と直線が模様を描いているが、それは地表の無機質さを和らげるどころか むしろ強めているように感じられる。 「またここか…」 リンはつぶやいた。最近になってよくこの場所の夢を見る。 ここでコウたちに会ったのは一回だけ。同じデスコマンダーとして戦っていたタマが デスブレンのところから逃げ出したときだ。 自らの意思でデスブレン側に付き、意思を持たない戦艦ボーグを受け取り、逃げ出していった者。 ああやって自分勝手に生きられればどれだけ楽だろうかと、時々思う。 でもそれがきっかけで、自分は記憶の一片を取り戻した。 本当はコウたちと共にいられたはずの自分の姿を垣間見たのだ。 ――オロチは私の本当の名前じゃない。 そう言ってコウたちと共に戦うことを決めた。リンとしての記憶を持たないまま。 リンは目を覚ました。 窓の外に目をやるとさんさんと太陽の光が降り注いでいて、 眠っていた時間が長くなかったことを教えてくれた。 ベッドから足だけを下ろして、練習用ユニフォームが入ったセカンドバッグに手をやる。 そこから取り出した一枚の写真には2年前のリンとダークナイトが写っていた。 イナリ山に隕石が落ちる前からリンはダークナイトと出会い、デスボーグを倒していた。 彼はリンが“オロチ”になった後もパートナーとして付き添い、最期はリンの知らないところで ガチャフォースと戦い、デスベースに散った。 ――リンを頼む。 それがコウとGレッドが聞いていた最期の言葉だったらしい。 彼がいなくなった後も“オロチ”として戦い続け、初めて彼のために涙を流せたのは デスブレンを倒したコウの手を握ったすぐあとの事だった。 (あれから、後悔ばっかりだな…) 写真を見つめ続けるリンの心は罪悪感であふれていた。 1−2、 翌日の8月2日。 リンは特にあてがあるわけでもなく、昨年『さばな市』に名前を変えた街へと向かっていた。 気分が沈んでいるときは体を動かせば楽になる。この2年で得た教訓だ。 部活が休みである以上、できるのは出かけることくらいだった。 街路樹が点在する歩道をゆっくりと歩き続ける。 ガードレールを隔てて走る車は次々にリンを追い抜いていき、 夏の太陽に照らされたアスファルトからは熱気が立ちのぼり、歩いているだけでも汗が出てくる。 リンは街路樹の陰で一息つくことにした。 左右に目をやってみると夏休みという時期のせいだろう、自分とあまり変わらないくらいの 子供も多い。 ある男の子は友だちと数人で歩き、ある女の子は男の子と並んで自転車で走っている。 みんなそれぞれに話しながら通り過ぎていくのに、自分はここに一人だ。 かつて一緒に戦った仲間がいる。小学校時代の友達もいる。部活の仲間もいる。 なのに自分の心のうちを全て話せるような人物は一人もいない。 リンは木に寄りかかるようにしてしゃがみ、ひとつ溜息を付いた。 不意に聞き覚えのある声がした。 声がした方向、反対側の歩道を振り返ると、こちらの歩道へと続く横断歩道の途中で コウとうさぎが話していた。 リンはとっさに目の前にある細い路地へ走りこんだ。 背の高さくらいある立て看板の後ろに回り、表の通りから姿を隠してコウたちが通り過ぎるのを待つ。 表の様子を伺いながら(うかつだった)と心の中でつぶやく。 どうしてコウが来ているかも知れないと考えられなかったのだろう。 ――今は会いたくないのに。 「…何をしている?」 背後から声がした。 驚いて振り返ると、制服に四角い通学用カバンを持ったショウが立っていた。 いつも一緒にいるガルダが見えないのは、おそらくカバンの中に入っているせいだろう。 「わ…私は別に」 そんなリンの言葉など気にも留めない様子で、ショウは目を細めて近づいた。 「看板に隠れてコソコソと。それで何もしていないとでも?」 「い、いや、だから!」 リンは必死に言い訳を考え始めた。 ショウを早くどうにかしなければ、コウ達が来てしまう。 詰め寄ってくるショウから距離を置こうとして、看板から離れたときだった。 「おー、ショウ! リン! こんなとこで何やってんだ?」 いちばん声を聞きたい人物の、いちばん聞きたくない声がした。 リンは振り向くことができず、そのまま下を向いて固まってしまう。 「たまたま会っただけだ」 リンに数秒の視線を送った後、ショウが答えた。 「ちょーどいいや、今からウチに来いよ。面白いことがあるぜ」 その言葉にはリンだけでなくうさぎまで驚いた。ショウはそれに気づいたが、 構わずに平然と返した。 「いいだろう、ちょうど暇だったところだ……錦織も暇だと言っていた」 突然自分を出されてリンはショウの顔を見上げる。 (さっきのことは黙っておいてやる) ショウは小声で言いながら、さっさとコウたちの方へ歩いていく。 そう言われてしまえば、リンは付いていくしかなかった。 1−3、 コウの家には2回だけ来たことがある。 だけどリンとして来るのは初めてのことだ。 2階に上ってすぐ左のドアを開けた先、コウの部屋に案内される。 部屋の中は記憶とほとんど変わっていない。 物が雑多に置かれた机、何冊も積まれた同じ雑誌。大雑把な性格と収集癖をさらけだすその光景は、 きちんと整理された自分の部屋が心の内を隠しているように見えるほどだ。 コウはテレビのスイッチを入れると、飲み物を取りにキッチンへ向かった。 うさぎは「手伝うから」と「来なくてもいい」と言うコウに対して頑固に言い張り、 部屋にはショウとリンだけが残されることになった。 リンはショウに強い罪悪感を持っていた。 父親がデスブレンによって犠牲になり、その仇を討つためにショウは戦ってきた。 過去にデスフォースの一員であったリンも、その頃のショウと敵対したことがある。 彼と戦ったのはダークナイトを失った少しあとと、クリスタルをめぐる戦いでの2回。 純粋な敵意で戦う彼はガチャフォースとは別の強さを持っていた。 だけどこの家で共にトレーニングをした時の彼からは、どこか優しい感覚を受けたことを 覚えている。 その前にあったというデスベースあとの決闘で、彼の中に変化があったのだろうか。 ショウは微動だにしないまま、テレビ画面を見つめていた。 『お昼のニュースです。昨日未明、突如行方不明になったさばな市の――』 さばな市という聞き慣れた言葉に反応して、リンは視線をテレビに移した。 『小学五年生――――君の行方は、いまだに明らかになっていません。  警察では付近の住民に聞き込み捜査を行うと共に――』 流れ続けるアナウンサーの声をよそに、コウとうさぎが部屋に戻ってきた。 「なんだお前ら、ニュースなんて見てたのか?」 「コウが勝手に点けて行ったんでしょ。こんなに部屋散らかしてたら、リモコンだってどこにあるか  わからないじゃないの」 そう言い聞かせるようにしながらジュースのボトルと4つのグラスが乗ったおぼんをコウに渡し、 散らかった机の上を整理していく。 てきぱきとプリント類をまとめていくうさぎの後ろ姿を、リンは見ていた。 2年前までは男の子に混じってサッカーをしていたようなうさぎだが、今は帽子を被ることは ほとんど無くなり、長い髪を見せるようになった。 慣れた手つきでコウの世話を焼く後姿には、芽生え始めた女性らしさが感じられる。 今だけに限ったことではない。 学校の廊下で彼女とすれ違うとき。コウと一緒に歩いている彼女を見ているとき。 それは何度も感じていたことだ。 しかしリンは、いつのまにかそれに悔しさを覚えるようになっていた。 ――このまま自分の気持ちだけが、2年前のあの日から動けないのだろうか。 「…コウ、面白いこととは何だ?」 ショウの言葉に、沈んでいたリンの意識は引き戻される。 「ああ、そのことか。もうそろそろ来るはずだぜ」 「来る?」 リンは聞き返した。 「久しぶりだな、みんな!」 唐突に声がしたのは、窓の方からだった。 外に突き出した窓枠の上に小さな人影が見える。 「よう! Gレッド、久しぶり!」 コウは屈託の無い笑顔で、小さな客人を迎え入れた。 1−4、 コウの台詞に反応して、床に置かれていたショウのかばんがバタバタと音を立てた。 やがて止め具が壊れそうなほどの勢いで、2枚の翼を広げた影が飛び出してくる。 「ガルダ! やめろ!」 ショウの叫びを無視してガルダはブレードを振り上げ、Gレッドに突進した。 「久しぶりだなァ! Gレッド!!」 振り下ろされたブレードをGレッドは後ろに飛びのいて回避する。 「ガルダ! 言うことが聞けないなら、いつだってパートナーをやめてもいいんだぞ!」 ガチャボーグは一部を除いて自ら戦闘を行おうとすることは無い。 しかしボーグの核であるデータクリスタルにパートナーの情報を書き込めば、 パートナーが持つ“勇気”を受け取ることができるようになる。 それはボーグの中で戦うための力――GFエナジーとなり、大きな力を発揮するための源になるのだ。 一度データクリスタルにパートナー情報を書き込んでしまえば、二度と書き直すことも 消去することもできない。 ガルダのように元から好戦的なボーグにとってもGFエナジーは大きなエネルギー源になるため、 パートナー関係を絶たれることは大きなマイナスになる。 ガチャボーグ最強を目指すガルダにとってさすがにそれは嫌だったのか、 「ちっ…分かったよ」 と言って、静かにブレードを降ろした。 「すまないGレッド。怪我は無いか?」 「大丈夫だ。ちゃんとかわせている」 言葉がひとこと多かったせいか、ガルダは鋭い双眸をGレッドに向けた。 「…外に行くぞ。頭を冷やすんだ」 部屋を出て行くショウの後に、ガルダは無言で続いた。 「なんか…嵐だったわね」 そう言ったのはリンだ。 「ショウのやつ、どうしてガルダがいることを言わなかったのよー!」 「まー、Gレッドが来るってことを秘密にしてたからな」 苛立つうさぎに、コウは相変わらずの態度だ。 「ガルダの奴も好き勝ってやってさ! Gレッドを壊すつもりだったわよ、さっきの!」 「いいじゃん別に。誰も怪我してないんだしさ」 「…それは、そうだけどさ」 言葉の勢いを失いながら、うさぎは床にぺたんと座る。 「だろ? 過ぎたことは気にすんなよ」 コウの声はリンの心に突き刺さった。 自分が昔のことで罪悪感を持っている、とコウに打ち明ければ今の言葉をくれるだろう。 それは彼の心に負担を与えることではないし、リン自身の心も軽くなる。 だけど欲しい言葉は他にあった。 それはもっと短い言葉。 コウはボトルに手を伸ばして、4つ並んだグラスにそれぞれジュースを注いだ。 リンとうさぎの前にグラスを1つずつ置いてから3つめのグラスを自分の前に引き寄せると、 ぐいっ、と一気に飲み干して大きく息をついた。 「あー。やっぱり伯父さんが贈ってきたジュースはうまいや」 そう言って2杯目を注ぎ始める。 注ぎ終わってボトルのキャップを閉めながら、Gレッドの方に顔を向けた。 「で、Gレッド。ガチャボックスの方はどうなってるんだ?」 ガチャボックスは地球にやってきたガチャボーグたちの宇宙船である。 デスブレン打倒のあと、ガチャボーグたちは破壊された故郷、惑星メガボーグの宙域に戻って もう一度自分たちの星を作り上げることを決意した。 しかし地球の重力を振り切るほどのパワーはガチャボックスには無く、改造を行う必要があるのだが、 地球には適合するパーツなど無い。 そこでやむなく、爆発して地球上に降り注いだデスブレンの破片を回収し、それを部品として 使っているのだ。 「すでに最後のひとつに取り掛かっている。いよいよ我々も故郷に帰るときが来た…」 2年以上も滞在していた地球を離れることに、Gレッドは嬉しさと寂しさの両方を感じているようだ。 「でもデスブレンの破片を使って改造してるんでしょ? 大丈夫だったの?」 言葉を挟んだのはうさぎだ。 「最初に旅立ったボーグ達からメガボーグ宙域に到着したという通信が届いている。  ガチャボックスには何のトラブルも起きなかったそうだ」 「…そっか。それなら大丈夫ね」 うさぎは安心した。最初に飛び立ったガチャボックスには彼女のパートナー、 ケイも乗っていたからだ。 「だけどガルダの奴はどうするんだろうな。ガチャボーグ最強を目指すとか言ってっけど、  ここだと他のボーグは帰っちまうし、帰ったらGFエナジーを受けられなくなるんだぜ?」 「どちらにしろ、出発前に決着をつけたがるだろう」 Gレッドは気乗りしないようだった。 「私にとってはボーグ最強なんてどうでもいいのだが…どうしたんだ? リン」 「えっ?」 下を向いていたリンは顔を上げた。 先ほどのコウの言葉から、話を聞いていなかった。 「暑くてのぼせてたのか? わりぃな、この部屋にクーラー無くて」 「……」 何も言わないリンに、コウが不思議そうな顔をする。 「どうしたんだ?」 リンの表情は窓の外を見たまま凍りついていた。 「リン? おい、リン!?」 コウの呼びかけも届かないまま、リンは外を凝視していた。 視線の先ではドロドロと溶け出すように、空の色が黒く変色を始めている。 どこかで見た夢のように。 1−5、 同じだ。 これは夢と同じだ。 黒く塗りつぶされた空間。 唯一他の色をしている地面には五重の円と直線が模様を描き、その無機質な地表に向かって 身体がゆっくりと降りていく。 地表に降りた。 夢と違うのはコウとうさぎ、Gレッドがいることと、 地表が正方形ではなくバスケットコートのような長方形をしていることだ。 その例えで言えば、リンたちはちょうど片側のゴール下にいる。 そしてもう一つ違うことは、反対側のゴール下に当たる位置に一人の少年がいることだった。 「なんだよココ…さっきまでオレの部屋だったのに」 「デスゾーンによく似ているが…少し違うな」 コウとGレッドがそう言ったところで、少年が口を開く。 「やあ、よく来たね。と言っても僕が引きずり込んだんだけど」 「君、確かニュースで…」 「知ってるの?」 リンに尋ねたのはうさぎだ。 「昨日さばな市で行方不明になった子よ。どうしてこんなところに…」 「この人間かい? ちょっと僕に付き合ってもらいたくてね。  こうやって精神を操らせてもらってるのさ」 「精神を操っているだと? 許せん! どこにいる!」 Gレッドが叫ぶと、少年の陰から1体のガチャボーグが姿を見せた。 「黒い…Gレッド!?」 コウが反応した。 「これは失礼。僕はココさ」 電子音のような声だった。ボーグ自身の声なのだろう。 Gレッドと同じように、言葉を発するたびに目が発光している。 「ま、Gブラックとでも呼んでよ」 Gブラックは少年のそばを離れ、コートの中央に向かって歩き始めた。 「Gブラックだと…! 貴様の目的は何だ?   どうしてこんなことをする!?」 「強くなるためさ。そのためにGレッド、君を倒しに来たんだ」 一点のよどみも無く、黒いガチャボーグは言い切った。 「この空間を作るのには苦労したよ。2日もかかっちゃった。  でもまぁ、ここなら逃げ場も無いからね」 「逃げ場が無い?」 「そう。僕が解除するか、倒れるまで出られないよ」 「ならば貴様を倒すまでだ! コウ、私に勇気を!」 「おう! いくぜ、Gレッド!」 「ねえ、ちょっと! コウ!」 うさぎがコウの服を引っ張っている。 「なんだよ、うさぎ…」 振り向いたコウの目に、うずくまっているリンの姿が映った。 「さっきから変なの。コウ、どうしよう…」 コウはGブラックに向き直る。 「ちょっと待ってろよ、リン。すぐにあいつをぶっ飛ばしてココから出してやるからな。  ――Gレッド、一気に行くぜ」 「ああ。最初から全開で行く!」 Gレッドはプラズマブレードを抜き、右手にさげた。 「“バースト”を使うのか。それじゃ、こっちも使わせてもらおうかな」 Gブラックの後ろにあった少年の身体がゆっくりと傾き、床に倒れた。 「何だ!?」 コウが叫ぶ。 「パートナーの勇気を受け取り、ガチャボーグの中でGFエナジーに変換する。  それが君たちの強さだ。けどね…」 Gブラックは胸の装甲を左右に開き、自身の奥にあるデータクリスタルを露出させた。 「バカな! データクリスタルが二つだと!?」 ボーグ情報の集積体であるデータクリスタルは、ボーグの身体の中にあるときには ひとつに融合しているものだ。 しかしGブラックの胸には、左右それぞれにデータクリスタルが埋まっていた。 「左胸にあるのが僕の情報が入ったデータクリスタル。そしてもう片方には  後ろにいる彼の精神が入ってる。パートナーから勇気をもらうんじゃなくて、  こちらから操って引き出してやるのさ。そうすればパートナーの気分しだいの君たちとは違って、  常に100%のGFエナジーを受け取れる」 「しかしそれでは、人間の精神は…」 「さぁ? 何分持つかなぁ?」 Gブラックの目が大きく発光する。 表情の変化は無いが、それが笑いだということは疑いようが無かった。 「貴様と言う奴は…許さん!」 「オレもだ、Gレッド。オレたちの力、見せてやろうぜ!」 Gレッドの全身が金色の光に包まれた。 前方に大きく跳躍しつつ、右肩のプラズマブレードを抜く。 跳躍が最高点に達したところで背中のブースターを全開にし、剣を突き出しながら Gブラックめがけて一直線に降下した。 「ちぇいさあああああ!!」 Gレッドの必殺技、真Gクラッシュだ。 「…バースト、オン」 静かな言葉と共に、Gブラックが銀色の光に包まれる。 一歩も動くことはしないで右の拳からGクラッシュのオーラを発生させ、 プラズマブレードの切っ先に向かってまっすぐに拳を繰り出した。 バシイッ!! Gクラッシュ同士が激しくぶつかり合う。 均衡は一瞬だった。 真GクラッシュとGクラッシュ。デスブレンに打ち勝ったコウの勇気と 無理にさらわれてきた少年の勇気。 力の差は明白で、Gレッドは徐々にGブラックの拳を押し戻していく。 「いいぞGレッド! あとひといきだ!」 「ああ! Gブラック、私達は屈しない!」 ぶつかっていたエネルギーが爆発を起こし、2体のガチャボーグを後方に吹き飛ばした。 Gレッドはきれいに着地して、Gブラックに目をやる。 Gブラックはバーストの光を失い、片ヒザをついていた。 「とどめだ、Gレッド!」 「ああ! 奴のデータクリスタルだけを破壊する!  ちぇすとおおおおおお!!」 2度目の真GクラッシュはGブラックの左胸を正確に狙った。 だが――気づいたときには、Gレッドは空中に打ち上げられていた。 回転しつつ落下し、地面に叩きつけられる。 「Gレッド!?」 「く…大丈夫だ、コウ」 バーストの光は消えてしまっているが、致命的な攻撃は受けていないようだ。 「それより奴は何をした? コウ、見ていなかったか?」 コウは首を横に振る。 「ん? 見えなかったの?」 Gブラックは先ほど膝をついていた場所で静かに立っていた。 「それじゃ、ゆっくり見せてあげるよ」 Gブラックの両腕が横に開かれる。 一瞬遅れて、両手首よりも先だけにバーストの光が宿る。 「…バーストを絞れるのか?」 「そういうこと。エネルギーには限りがあるんだから、集中させて効率よく使わないとね」 「集中させる…それだけパワーが上がるということか」 「その通り。いやぁ、適当に選んだ子供でも上手に使えばこれくらいの力を出せるんだねぇ。  ――こりゃ、面白くなりそうだ」 Gレッドは立ち上がり、プラズマブレードを構えた。 「まだだ。まだ私達の勇気は尽きていない! そうだろう、コウ!」 「おう! うさぎとリンが待ってんだ。オレ達は負けねえ!」 Gブラックの目がとりわけ大きく発光する。 「いいねえ。いい気迫だ。それじゃ、どっちかが倒れるまでやろうじゃないか! Gレッド!!」 「すまない、コウ。ガルダをなだめるのに時間がかかってしまって…」 ショウが部屋に入ろうとすると、いきなりうさぎが飛び出してきた。 勢いよく開いたドアにあやうくぶつかりそうになる。 「気をつけろ!」 思わず怒鳴ってしまうが、うさぎの目を見てショウの表情は強張った。 「ショウ…Gレッドが…リンが…」 涙目で訴えるうさぎの先、部屋の中に目をやると立ち尽くすコウと倒れたリン、 そして全身に傷を受けて動かなくなったGレッドの姿があった。